近鉄ライナーズはやっと勝った。
プールBから、セカンドステージ上位リーグ戦に進む権利を有するトップ4チームに滑り込む希望を何とかつなげた。
34-14。今季初白星はリーグ戦3戦目、今季トップリーグに昇格したコカ・コーラウエストレッドスパークスからだった。
初戦のパナソニックワイルドナイツは0-46。2戦目のクボタ・スピアーズに17-22。出てきた勢いを持続させた。
戦前、現役時代、日本代表FBとして13キャップを持つコカ・コーラの向井昭吾ゼネラル・マネジャー(GM)はライナーズに敬意を表した。
「ウチも近鉄もSOの日本人選手を育てようとする意志が見える。頑張っている。ラグビーを盛り上げるためには、SOは日本人であってほしい。人気がある頃には松尾(=雄治、日本代表キャップ24、明治大学、新日鉄釜石OB)、平尾(=誠二、同35、同志社大学、神戸製鋼OB、現神戸製鋼コベルコスティーラーズGM)らがいた。WTB大畑(=大介、同58、京都産業大学、神戸製鋼OB、現追手門学院大学客員特別教授)という時期もあったが、WTBはボールを持つ回数が少ない。ボールタッチが多く、目立つSOに日本人を起用しないと多くのファンを競技場に呼べないし、真に世界と戦っていけない」
攻守をコントロールする「司令塔」と呼ばれるSOに、コカ・コーラは吉原渉、ライナーズは重光泰昌を置いている。現在、スクラムから5メートル離れなければならず、攻守のインパクト時によりパワーが要求されることや、ディフェンスシステムが構築され、キックの必要性が増したことなどで、安易に外国人起用するチームが多くなってきた。向井GMは2003年に日本代表監督として第5回ワールドカップに出場した経験などから、その流れに警鐘を鳴らす。同時にライバルとはいえライナーズに対して同調の念を持っていた。
チーム構成に対する信念が似ている両チームの対戦は長居スタジアムで行われた。サッカー日本代表や国際陸上など世界規模のイベントで使用されるスタジアムだ。観客席を包み込む両サイド鉄傘に組み込まれた白い照明の光度は高い。午後5時に開始される緑芝上のパフォーマンスを鮮やかに浮かび上がらせる。
ライナーズはHO太田春樹主将が今季初先発。負けられない一戦で精神的支柱をスタートさせた。さらにLOトンプソンルークを2年ぶりにFLに下げた。LOには太田同様今季初先発となるトム・ホッキングスを起用した。LO松岡勇を含め、190センチ超えの選手3人を使い、ラインアウトを中心に高さでの圧倒を考えた。両WTBはルーキーの南藤辰馬と33歳のユーティリティープレーヤー、坂本和城を選んだ。若手とベテランのマッチングだった。
前田隆介監督は説明する。
「トンプソンはFLができる。ホッキングスにはチームに活力を与えてほしい」
6月29日、コカ・コーラのホーム、福岡・香椎で行われたオープン戦は19-21でライナーズが敗北。この一戦は雪辱の意味合いもあった。バックスタンドに向かって左にライナーズが陣取り、コカ・コーラのキックオフで試合は始まった。
ライナーズは攻める。前半1分、敵陣10メートル付近でのPKでタッチキックを選択。PGを狙わずトライを取りに行く。ラインアウトはスロアーの太田とホッキングスの息が合う。2度ラインアウトモールを押し込むが、相手オフサイドとインゴールでグラウディングできず、得点できない。しかし、開始早々の敵ゴール前までのなだれ込みは、これまでには見られなかった積極性があった。
前半10分、ライナーズはラインオフサイドから得たPGを重光が成功させ3-0とする。先制したのは今季3戦目で初めてだった。
同24分には相手のノックオンボールを重光が獲り逆襲。ゴール前右のラックからSH金哲元が左サイドを突き、トライ。40分には再び金がインゴールに飛び込み、15-0と今季初めて前半リードで終了した。
後半開始早々はコカ・コーラの時間帯。4分、ゴール前のラインアウトモールを押し込み、FLソロモン・キングが5点をマークする。7分にはチップキックを追ったFB川口皓平が快足でボールを再確保し、トライラインを超えた。15-14と1点差。しかし、ライナーズは11分、ラインアウトモールから。フェイズを5回重ね、最後はFB高忠伸がインゴール左隅に飛び込んだ。虎口を逃れたライナーズは24分、途中出場のNO8ラディキ・サモが、27分には内返しをもらったWTBリコ・ギアがトライをマークして逃げ切った。
勝利にかける執念があった。
後半31分、インターセプトからの逆襲で右タッチライン際を快走したWTB松岡元気を重光がバッキングアップ。トライ寸前の右コーナーフラッグ付近でなぎ倒した。点数は34-14。5点を失っても大勢に影響はない。これまでのライナーズなら失点していただろう。その甘さを断ち切る重光のタックル。33歳の返りは、ライナーズの遅い目覚めを確信させた。
前田隆介監督は共同記者会見で初めて笑みを浮かべた。
「やっと勝たせてもらって、ホッとしている。ゲームを追うごとにどんどんコミュニケーションが取れてきて、得点力は上がってきている」
トンプソンもほおをゆるめる。
「今日勝って無茶苦茶うれしい。いいプレーができたと思う。FLはやったことのあるポジションなので問題はなかった」
5月に右足首を手術。7月末に本格復帰した196センチの大男は精力的にボールを追った。リハビリ期間に5キロ増量の110キロになったが、ウエイトトレでのサイズアップのため、動きの悪さはない。今季3戦目で完全復活した。
トンプソンは試合翌日の15日から17日まで、東京・府中のサントリーグラウンドで行われる日本代表強化合宿に招集された。39キャップを持つトンプソンの参加はライナーズにとっても歓迎だ。エディー・ジョーンズ監督の最新トレーニングや理論がチームにも持ち帰られる。影響は決して少なくない。
頼もしいシーンもあった。今季新加入のNO8サモが後半13分に出場。24分、ゴール前のラックから左サイドを突いてトライを挙げた。初戦のパナソニック戦で腰を打撲したが、2週間で復活した。後半終了間際には独走しながら、ボールを持っていた右手から落とすハプニングもあった。
「トライができてうれしかった。腰は先週まで少し痛みが残っていたが、もう大丈夫。ボールを落としたのは右手で下から持っていたボールを鷲づかみに変えて走ろうとして失敗した。がっかりした」
それでも197㌢、117㌔の巨体ながら、スクラムサイドを突けば、一瞬でゲインラインを突破する。ストライドの広さ、スピードなどオーストラリア代表キャップ37はダテではない。
この日の白星は5月に永眠したFL中井太喜に捧げる1勝でもあった。
前田監督は言った。
「中井はいなくなってしまったけれど、魂は残っている。これからも一緒に戦って行きたい」
ライナーズは3戦目から戦い方を変えた。
変えた、というより戻した。従来は第1次攻撃でCTB周辺を狙っていたのを、大外、WTBへボールを振り始めた。外側から内側を攻め、フェイズを重ねるようになった。これは昨季までのライナーズのパターンだ。今季は、そのアタックをベースにして、バリエーションを増やすため、ターゲットを中に持って来た。しかし、時間不足などもあり、1、2戦目では思ったような成果が得られなかった。
FLタウファは言う。
「この形のほうが慣れはある。外側に振って、内側に残っている僕やルーク(=トンプソン)や幹夫さん(=佐藤、FL)が突破していく。分かっているからやりやすはある」
コカ・コーラ、臼井章広ヘッドコーチはタウファの言う「動きやすさ」を認めた上で敗因を分析する。
「近鉄らしく、統悦(=タウファ)、トンプソン、佐藤らフィジカルの強い選手たちが入れ替わり立ち代わり、ブレイクダウンのシーンに現れて、ボールに絡んできた。ターンオーバーされた。本当に次から次へとね」
現役時代、黄金期の大東文化大学、東芝府中でぶちかましに優れたFLとして、トップレベルのFW第3列を肌で感じている43歳の指導者は、自分と同じ相手サードローの流れを理解した動きに半ば驚嘆していた。
試合後、30分ほどしても「ハアハア」とタウファの呼吸は荒かった。額には汗が光っていた。初戦のパナソニック戦より大きく疲弊していた。
「体力を使い切った(笑)。今日は自分もブレイクダウンに入りやすかった。どこにボールの動きに慣れている。(どこにボールが運ばれるか分かっていたから)ミスも目立たなかった」
戦い方に関して、負けたとはいえコカ・コーラは自分たちの戦い方、内側を使わず、外側で、BKで勝負する、にこだわった。アジア枠を含めた外国人3人中2人、ジャスティン・コベニー、トゥ・ウマガマーシャルをCTBで使い、コカ・コーラの切り札、7人制日本代表、速くて強いWTB築城昌拓や川口にボールを集めた。風上でもキックを多用しなかった。
昨季からチームを指導する山口智史監督は真っ直ぐに視線を向ける。
「一昨年、ウチはトップリーグ落ちした。その理由は、自分たちのスタイルが作れなかったから。だから昨年から攻め方を貫いている。ウチは内側で突破できる(破壊力のある)外国人がいないので、外で取りきろうとしている」
外国人2人をデコイに使ったサインプレーでライナーズは築城を2回フリーにしている。34歳と若き指揮官の思い描く夢は少しずつ現実味を帯びる。
理想から現実に戻ったライナーズと理想を追い求めるコカ・コーラ。
結果はライナーズが勝ち、コカ・コーラは負けた。
しかし、ライナーズはコカ・コーラの姿勢から学ぶべきものはある。「理想の実現は時間がかかる」ということと「貫けば道は拓ける」という2点だ。初勝利を手にしたチームが次に進むのは、現実か、それとも理想か。チーム事情や歴史もある。その上でチームスタッフ、選手全員の覚悟が試される。
この日、4トライを挙げ、ライナーズの勝ち点は6となった。「死のB組」と言われ、実力伯仲の8チーム順位は上から、①東芝13、②ヤマハ発動機11、③パナソニック8、④リコー8、⑤キヤノン6、⑥クボタ6、⑦近鉄ライナーズ6、⑧コカ・コーラ3である(同勝ち点での上下は得失点差)。残り4試合を勝ち切れば、セカンドステージは上で戦える。
しかし、浮かれるのは早過ぎる。まだわずか1勝。次戦、1週空いた9月28日の対戦相手はキヤノン。勝ち点6で並ぶが、得失点差は29と開く。キャノンは、ライナーズが0-46と完敗したパナソニックに23-18で勝利した。SOにはニュージーランド代表キャップ36のアイザイア・トエアバがいる。181㌢、96㌔の体ながら、強さと柔らかさを兼ねたアイランダー系特有の動きは脅威だ。しかも、試合会場は山口・維新百年記念公園陸上競技場。戦い慣れた花園、ましてや長居や秩父宮でもない。普段よりしっかりとした準備が望まれる。
次に黒星を喫すれば、上位4チーム入りに手が届かなくなる。
進む道の険しさに変わりはない。
(文:スポーツライター 鎮 勝也)
(写真:加守 理祐)
【マン・オブ・ザ・マッチに選ばれた重光 泰昌選手コメント】
チーム全員の頑張りで、チームを代表して私がいただきました。
1勝のみではまだまだチームの目標に到達できませんので、次節もチーム一丸で勝ちにいきます!
【前田監督コメント】
連敗後の3節、地元大阪の試合でたくさんのサポーターの皆様に来ていただき、大声を張り上げてご声援をいただきありがとうございました。
試合ピッチの選手もその「熱い」ご声援に背中押され、力を発揮する事ができました。
次節もチーム一丸「AGGRESSIVE REVIVE」を体現します。