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2013年11月 1日 (金)

トップリーグ 1stステージ 第7節 東芝戦レポート

 ファーストステージ最終節も近鉄ライナーズは僅差の負けだった。
 10月27日、プールB第7節、東芝ブレイブルーパスとの戦いは19-22の3点差で敗れた。
 6位。勝ち点13で前半戦を終了した。

 プールB最終順位

1位 パナソニック 28
2位 ヤマハ 25
3位 東芝 23
4位 キヤノン 20
5位 クボタ 20
6位 ライナーズ 13
7位 リコー 9
8位 コカ・コーラ 6

(数字は勝ち点、4、5位は得失点差による)

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 前日26日、キヤノンイーグルスがヤマハ発動機ジュビロを28-18、クボタスピアーズがコカ・コーラウエストレッドスパークスを30-26でそれぞれ破り、勝ち点20とした。
 ライナーズは東芝に勝利して、4トライ以上獲得のボーナスポイントを含む勝ち点5を挙げても、2チームを上回れない。最終戦を待たずして、セカンドステージ上位のグループA入りの望みは絶たれていた。かたや東芝は勝ち点19。トップ4に入るためにはポイントを挙げねばならなかった。両チームには試合の動機づけに非常に大きな差があった。

 にもかかわらず、後半38分まで19-19の同点だった。最後は自陣ゴール前のラインオフサイドでPGを決められたが、接戦に持ち込んだ。
 「やればできる」。「やればできる」
 約100人のライナーズサポーターの声援がスタンドにこだました。大阪・上本町から応援バス2台で約3時間をかけ、鳥取・コカ・コーラウエストスポーツパーク陸上競技場に集まった人々の思いである。

 試合前、ライナーズ監督、前田隆介はミーティングで短く言い放った。
「気持ちを入れてやれ。お世話になっている人々を思いやれ」
 その檄に、スタメン今季初のベテランと同2試合目の若手が奮い立った。

 右PRに入ったのはライナーズ8年目、30歳の成昂徳(そん・あんどっ)だ。前田は試合の週の練習前にFWに言った。
「次の試合のメンバーは練習を見て決める」
 試合の前週を含め2週間、動きに熱のこもっていた成が選ばれた。
 定評のあるスクラムでは力強さで、後半3分、ターンオーバーした。左PR田邉篤、HO樫本敦が右内側に押し込む。相手フロントローが割れた瞬間、一気に177センチ、110キロの体を左内側に食い込ませた。
 東芝のHO湯原祐希は日本代表キャップ11、右PR浅原拓真は同5。ライナーズの3人はノンキャップ。ジャパンに組み勝ち、ボール奪取した。
 スクラムコーチ兼アナリストの阿部仁は解説する。
「成が田邉たちと同じ方向に押していたらボールは獲れていない。内側に入ったベテランの判断。さすが」
 力の矢印を変えなければ、ノットインから再スクラムの可能性もあった。

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 8対8の押し合いだけではない。後半8分には4フェイズを重ねた東芝アタックのこぼれ球を素早くセービングして、マイボールに変えた。俊敏さやスタミナをも内包する。

 成は第一声を放つ。
「この年齢になっても緊張してしまった。でも自分にとってはいい緊張だった。選んでもらえたことに感謝している」
 帝京大学の後輩、2年目の前田龍佑や同志社大学出身の3年目、才田修二に出場機会を奪われていたが、諦めてはいなかった。
 個人練習では15メートル四方に色違いのマーカーを置き、各マーカーにタッチしてからタックルバッグに入る、反応や左右の動きを速めるメニューを30分近くこなした。希望を捨てない取り組みがあった。

 精神的な支えもある。
 試合5日前の22日、大阪朝鮮高級学校時代に教えを受けた、呉英吉(お・よんぎる)から久しぶりに電話をもらった。
「元気にしているか?と。気にかけてもらっているのが分かった。うれしかった」
 ラグビー部監督として大阪朝高を全国4強に2回導いた呉は理由を話す。
「最近、試合に出てなかったようだし、少し心配になって電話した。試合に出ることになってよろこんでいた。初心に戻って朝高に練習を見に来い、とも言った。高校時代はキャプテンで、リーダーシップもあり、陰で努力するタイプ。これからもがんばってほしい」
 恩師からの携帯を通じた励ましは心に残った。

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 ベテランの代表格が成なら、進化する若手は近畿大学から入社2年目のWTB島直良である。背番号14をつけ東芝戦に出場した。
 島にとっては9月7日、リーグ第2節のクボタ戦に続き今季2回目の先発。前回は17-22でチームは負けた。島自身もハードタックルを受けるなど精彩を欠いた。
 50日後、島には積極さが備わっていた。
 前半24分、CTB森田尚希がタッチライン際に流れると見るや、瞬時にクロス。内側に入り、ボールをFWに返し、リサイクルした。同33分、12-12と追いついたWTB松井寛将の同点トライでは、一連のフェイズの中でCTB森田からボールを受け、ポイントを作りに行っている。
 島は、はにかみながら早口で話す。
「ああいうプレーを目指している。ボールタッチの回数を多くして、右左のポジションに関係なくボールに絡んでいきたい」

 島は23日の試合形式の練習時、バックスリーを形成したFB髙忠伸に怒られた。リザーブだったリコ・ギアのグラウンドへの進入を見て、島はすぐに外に出ようとした。
「なぜ交替要員として名前を呼ばれていないのに、自分から替ろうとするのか。お前は少しでもプレー時間を長くすることだけを考えればいい」
 逆サイドのWTBは近大7学年上の松井。ギアはニュージーランド代表キャップ19を持つ。島は長幼や肩書に配慮して、自ら交替しようとした。前主将は、それは間違いだ、と諭す。グラウンド内では先輩後輩や経歴は関係ない。礼儀はグラウンド外で尽くせばいいのであって、練習や試合はパフォーマンスにのみ集中すべきだ、ということを教えた。

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 4日後、島は大外の位置からボールを貪欲に追いかける。
 敗戦に沈んだ髙も島の話では口角が上がり、目じりは下る。
「今日はよかった。積極的に行っていた。一つ成長してくれたと思う。彼の問題は性格的なもの。そこに気づいて変えていかないといけない。スピードなど持っている能力はずば抜けているのだから」
 東芝戦後、アフターマッチファンクションの席で、日本代表主将でキャップ15を持つWTB廣瀬俊朗に初対面にもかかわらず、あいさつを交え、ブラインドサイドに立った時の動きなどを教えてもらっている。
 自立心が根付きつつある。

 ベテランの奮起、若手の成長。
 ファーストステージの最後に、明るい兆しが見えた。
 セカンドステージは光度をさらに高めて行きたい。

 そのためにも、ここまでの戦いの検証は必要だろう。
 プールBの戦績は2勝5敗だった。

●0-46 パナソニック
●17-22 クボタ
○34-14 コカ・コーラ
●17-18 キヤノン
○35-19 リコー
●17-26 ヤマハ
●19-22 東芝

 5敗の中、46失点のパナソニック戦を除けば、4敗の最大点差は9。わずかな差だ。ではなぜ競った試合を落としてしまったのか。
 それは、ラグビーをできるよろこびを感じきれてないからではないか。
 付け加えるなら、ライナーズで、そして近鉄花園ラグビー場でプレーできる幸せである。
 わずかな得点差による敗戦は戦術や戦略に起因するものではない。ライナーズの選手たちの心の持ちようなのではないか。

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 スポーツニッポン新聞社大阪本社に野球記者、内田雅也がいる。内田はスポニチ3面に阪神タイガースの連載コラム「追球 2013」を書いている。
 今春3月14日付のテーマは「よろこびを力にする」だった。

 前日、甲子園球場でのオープン戦先発は、プロ3年目の阪神・岩本輝と新人のヤクルト・小川泰弘だった。この日、岩本は4回7安打4失点。小川は5回3安打0封の内容だった。
 内田は若手2右腕の成功と失敗について推論をする。
「それは喜びではないか。感動といってもいい。(中略)甲子園である。甲子園で投げられる喜びが(小川から)伝わってきた」
 小川は愛知・成章高校3年春の2008年3月、21世紀枠で第80回選抜大会に出場した。それから1813日目のマウンドだった。かたや岩本にはホーム球場。ファーム戦でも登板機会はあった。そこに感動はない。
 原稿の場面は変わる。メジャーリーグ投手の亡き伊良部秀輝が、牛島和彦(現野球評論家)に教えを乞うた話を掲載する。
「まず野球に対して、(伊良部自身が)どのような姿勢、考え方で取り組むのか、ということを整理するところから始めた」
 牛島のコーチングで伊良部は日米通算106勝を挙げる投手になった。
 そして内田の文章は続く。
「野球が人間的、精神的なスポーツであることは論を待たない。あくまでも見た目の印象だが、小川には夢や感動が、岩本からは重圧を感じた」
 小川は今季16勝を挙げた。新人王は確実だ。一方、岩本の今季の一軍登板は1試合に終わった。

 内田の「野球が人間的」という部分は「ラグビーが」に置き換えられる。
「なぜラグビーをやっているのか」
「なぜライナーズにいるのか」
「なぜ花園があるのか」
 選手個々の根本にあるのは、内田の書くプレーするよろこびだろう。楽しさといっていい。
 楽しいから、続けてきた。
 楽しいから、苦しい事にも取り組める。
 楽しいから、達成感が強い。
 選手たちの身分は近鉄本社、グループ会社社員、プロ契約選手など様々だ。しかし、この思いは選手全員が等しく持っているはずである。

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 選手たちの理屈を抜いた感情が溶け合い、勝負にこだわるために存在するのが、日本で最高峰のトップリーグ16チームに所属するライナーズなのである。
 創部は1929(昭和4)年。神戸製鋼コベルコスティーラーズの創部、1928年に1年遅れをとっているが、トップリーグでは2番目に古い部史を持つ。85年間で日本選手権優勝3回、全国社会人大会8回を記録する。
 ライナーズが特別視されるのは、日本で唯一、収容人数3万を誇るラグビー専用の近鉄花園ラグビー場を持つからである。そこはラグビーを選んだ全国の高校生にとって甲子園と同等の聖地であり続けている。

 ラグビーを国内最高峰で、ライナーズで、花園でできるのだ。
 どれだけ多くのラグビー経験者がトップリーグで、日本一のグラウンドで、楕円球を追いかける夢を持ちながら、そこから遠ざかって行ったかを考えたことがあるだろうか。
 その上で、自分自身を内省し、誓い新たに、幸福感を持ってラグビーに取り組むことこそが、道半ばでチームを去ったFL中井太喜の志(こころざし)を継承することではないだろうか。
 ライナーズの選手たちは、君たちは生きている。
 感じ、考え、行動できる。

 リーグ戦再開は11月30日。
 自分と向き合う時間は十分にある。

 ラグビーを始めた時の気持ちを思い出そう。
 ラグビーは楽しい。

 (本文敬称略)

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(文:スポーツライター 鎮 勝也)
(写真:加守 理祐)


【前田監督からサポーターの皆様へ】
 鳥取のスタジアムまで応援に来ていただいたサポーターの皆様に感謝しております。
順位に影響のない試合に対し、遠くまで応援に駆けつけて頂いたサポーターの皆様にライナーズの意地とプライドをみせようと挑みました。
立ち上がり15分は、また最悪の状況でしたが、何とか1T1G差で前半を乗り切り、後半7点差を追いかけましたが、またしても勝負どころでのミスとペナルティーにより、3点差を乗り越えることができませんでした。
まだシーズンは続きますので、最後の最後まで近鉄ライナーズの意地とプライドをみせれるように取組んでいきます。
引き続き、ご声援の程宜しくお願い申し上げます。

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