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2013年10月 8日 (火)

トップリーグ1stステージ第5節 リコー戦レポート

暗闇の先の白さが、一筋の光に変わった。

 わずか2日で近鉄ライナーズに、11月30日から始まるセカンドステージへの希望が生まれた。プールA、B上位4チームによるAグループに入る可能性が出てきた。

 10月5日、今シーズン初のホーム、近鉄花園ラグビー場で定期戦を組むリコーブラックラムズを35-19と打ち負かした。今季2勝目。4トライ以上獲得のボーナス1ポイントも含め、勝ち点5を挙げ、12点とした。

 それでも、この時点では部長兼ゼネラルマネジャー(GM)、菅浦隆弘の残した言葉がライナーズの総意だった。

「相撲でいうと、徳俵で踏みとどまった」

 翌6日、前節、ライナーズを18―17で破り、4位に上がったキヤノンイーグルスが6位のクボタスピアーズと対戦した。成績上位が勝つ法則に反して、キヤノンはクボタに24-37で競り負けてしまう。

 リコー戦後、約22時間が過ぎ、ライナーズはプールB4位に浮上した。今季初めてのトップ4入りだ。

 

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 1位 ヤマハ      21

 2位 パナソニック   18

 3位 東芝       18

 4位 近鉄ライナ―ズ  12

 5位 クボタ      11

 6位 キヤノン     10

 (2、3位は得失点差)

 

 ライナーズに光明をもたらしたリコー戦勝利の中心選手は、トップリーグ初スタメンの森雄祐だった。

 摂南大学から入部3年目SHは、ポイントに素早く寄り、引かず、持ち上げず、瞬時にパスアウトし、アタックのリズムを作った。

「緊張はあったけど、去年から公式戦に出させてもらっているので、去年よりはましだった。試合前にメンバーから、いつも通りやれ、と声をかけてもらった」

 後半11分には金哲元と交替したが、スタメンデビュー戦を白星で飾った。

 

 森はボール出しの局面でパスしか考えない。サイド攻撃、キックなど色気は出さない。ラックに到達すると低い姿勢で即座に楕円球を放した。さながら監督、前田隆介の現役時代を見ているようだった。

 前半34分、12-7としたNO8ラディキ・サモのトライでは、直前のSO重光泰昌の3人抜きランに目が奪われがちだが、5次攻撃の間、正確なパスを出し続けた森のパフォーマンスも忘れてはならない。流れに竿をささない動きが逆転を呼び込んだ。

 出場51分間、捕球者が取れない、後ろに飛んだり、手前で失速するようなミスはなかった。SHでもっとも必要なのはパス能力である。そして、パスには練習の成果が表れる。センスは関係ない。投げ込みをすればするほど上手になる。森は単純なルーティーンを繰り返しているはずだ。

「自分のプレーの良さはテンポだと思っている。とりあえずポイントに早く行ってさばくことを意識している。そこでしか金さんとか、他のSHと勝負できない」

 参考にするのは同タイプ、サントリーサンゴリアスのSH日和佐篤だ。日本代表キャップ27を持つ1歳年上の動きを見つめる。ライバルチームの選手でも、素直に良さを認め、良化の手本とするところに長所がある。

 HB団を組んだ9歳年上の重光は後輩のプレーを評価する。

「いい感じだった。うまくやっていた。でも、あいつのいいのはランニング能力。走りまくれる力はある」

 パス能力だけではない。実は持ち出しもできる。

 才能の開花が楽しみである。

 

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 ライナーズにSHは4人いる。森、金、北村一真、福地達彦だ。これまで4試合の先発は金だった。

 ライナーズのライバル、神戸製鋼コベルコスティーラーズの総監督兼GM、平尾誠二は言う。

「チームにはレギュラーの人間がいて、そこに普通は最初からポジションなんてない。野球で言うならみんな代打スタート。回ってきたチャンスに打てるかどうか。そこで結果を残せば、代打の二番手が一番手になり、やがて試合に最初から出て行くようになる。代打に指名された時に、こんな場面で出しやがって、と思う人間は消えてしまう。そんなことを言う奴がチームに残っているのを見たためしがない」

 どのような状況でも、常に前向きに、ベストを尽くせ、そうすれば道は拓ける、と「ミスター・ラグビー」は伝える。

 平尾は現役時代、主にCTBとして代表キャップ35を獲得した。1980年代には同志社大学を大学選手権3連覇、その後、神戸製鋼では、主将として全国社会人大会(トップリーグの前身)、日本選手権7連覇に導いた。1999年には第4回ワールドカップの代表監督を経験した。選手、指導経歴ともに申し分のない、ラグビー界を代表する50歳の言葉は重みがある。

 森が好機をつかめるか。金の巻き返しもあるだろう。北村、福地もこのままでは終われない。チーム内の熾烈なポジション争いは、常勝チームに変わるためには、必要不可欠なものである。

 

 1929年創部のライナーズと1953年創部のリコーは定期戦を組む親密な間柄である。

 ゲームは1976年に始まった。今年で38回目を迎えた。試合は春に行われる。1年ごとに花園と、リコーのホーム、東京・砧(きぬた)グラウンドで開催。お互いのファーストジャージー、エンジ紺と黒を着て、その年の強弱は関係なく、ベストメンバーを並べ、強さを競う。

 今年は6月1日、砧で行われ、ライナーズは9-17で敗れた。リーグ戦での勝利はリベンジにもなった。

 定期戦の成り立ちは、社会人大会8回、日本選手権3回優勝のライナーズと同3回、2回のリコーが、覇権を獲った似通ったチームということもあったが、その他にも理由はあった。

 リコーGM、福岡進は説明する。

「ビジネス的な理由もあった、と聞いている。昔、ウチが無配当に転落して苦しかった時、近鉄が九州でホテルを開業した。コピー機などの備品をウチに発注してくれたり事務所がその中に入ったり、そのご縁が始まりだと。私は切っても切れない仲だと思っている。春のスケジュールを立てる時にはこの試合を最優先して入れる」

 ただ単にラグビーだけのつながりではない。会社同士の結びつきもある。

 

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 元々、ラグビーは定期戦の集まりだった。関東大学ラグビー対抗戦グループが強さによってAとBに分かれ、現在の総当たり戦を実施するようになったのは1997年、わずか16年前からである。それまで、帝京大学と慶應義塾大学の試合は組まれていなかった。大きな理由は、今日では、前人未到の大学選手権4連覇を達成した帝京大学ですら、その時までは、ラグビーのルーツ校から見れば「新興校」扱いだったからである。この例でも分かるように、お互いの歴史と強さの融合が定期戦である。ライナーズとリコーが毎年試合を組むのは、その伝統の継承にほかならない。

 

 福岡は現役時代、速く、強いCTBとして活躍。定期戦にももちろん参加した。1990年、スリランカ・コロンボで行われた第12回アジア大会決勝、日本対韓国戦にはインサイドCTBで出場している。SOは平尾誠二、アウトサイドCTBは日本体育大学の先輩でもある朽木英次(元トヨタ自動車監督)。9―13で準優勝に終わったが、代表キャップを手に入れた。一流選手と同時に、リコーで監督経験もある福岡はライナーズを評する。

「選手の時よりチームスタッフになってからの方が思い出深い。常に強力FWが印象に残る。モールやブレイクダウンが強いイメージ。毎年、思うことは定期戦の成績は参考にならない。調子に乗せると手が付けられないチームということ」

 

 福岡が警戒するモールはやはりリコー戦でポイントになった。

 ライナーズはディフェンスで削り、アタックで押し込んだ。

 リコーの前8人は大きく、強い。

 NO8には、日本代表キャップ12、196センチ、110キロのマイケル・ブロードハーストがいる。LOはトンガ代表キャップ14、200センチ、125キロのカウヘンガ桜エモシが入り、192センチ、111キロのFLロトアヘア・ポヒヴァ大和らが続く。

 28-7となった後半7分、自陣ゴール前5メートル右のラインアウトからモールが組まれた。リコーはFW7人全員が並び、4番の位置でブロードハーストがキャッチした。トイメンに立ったLOトンプソン・ルークが素早く背中をつかみ引き倒す。ブロードハーストを守る左右のリフターに対しても寄ったエンジと紺がプロレスのバックドロップのように後方に投げを打った。リコーの一列目は崩れる。ボールをむき出しにさせ、コントロール不能にさせた。後半10分、同じ位置でカウヘンガがキャッチして再びラインアウトモール。これもカウヘンガをマークするFL天満太進を中心に同様の対処をして、インゴールを割らさなかった。後半10分過ぎまでにリコーの強みでの反撃機会を与えず、勝利を引き寄せた。

 FWコーチの今田圭太は説明する。

「試合前には誰が誰をノミネートするかを確認した。ウチのFWはトンプソンをはじめ力が強い選手が多いので、ラインアウトであれば、着地と同時にサックして、削って行くやり方が可能になる。よくやってくれた」

 ライナーズのモールを絡めたアタックは成功を収める。0-7の前半22分、敵陣ゴール前右、5メートルのラインアウトをNO8サモが取り、モール。サイド攻撃を4回交えた後、FL天満が左サイドを突き、インゴールに飛び込んだ。左手を大きく上げてガッツポーズ。SO重光のゴールキックも決まり、7-7と逆転勝利への足掛かりを作った。

 

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 個人的には森がさばき、チームとしてはFW8人がスタンディングの押し合いを制した。

 そして、勝利チームに与えられる機会が多いマンオブザマッチに輝いたのは今季初受賞のWTB坂本和城だ。

 ゲーム終了間際、35-19と16点差はあるのに、裏側に蹴られたキックに反応。必死で戻り、FB髙忠伸につなぎ、リコーの加点を未然に防いだ。試合のMVPは基本的にはマッチコミッショナーの独断によって選ばれる。当日の運営責任者、大阪府ラグビー協会理事長でもある渡辺宗治郎は選考理由を話した。

「一生懸命に戻っている姿に心を打たれた。最後まで試合に出ていたこともある。本当は目立たないところで頑張っているFWに贈りたい。でも今日は坂本君がよかった」

 理由を聞いた坂本は小ぶりの盾を手にしながら照れ笑いを浮かべる。

「もうちょっと正々堂々ともらえるように次は頑張る」

 坂本自身は意外な受賞だったかもしれないが、わずかワンプレーがラグビーの玄人を唸らせた。必死さは美しい。

 それこそが、今のライナーズに必要なものだ。

 さらに言えば、ファンは、関係者はどんな些細なプレーも見逃しはしない。口に出さなくとも、文字にされずとも、必ず見ている人はいる。

 

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 リコー戦は今季5試合でチーム最高の6425人が訪れた。開幕戦、8月31日、大阪長居のキンチョウスタジアムでの6003人を約400人上回った。GM補佐の木村雅裕はPR成昂徳らを引き連れ、試合に先立つ5日前、9月30日、沿線駅の東花園、布施、大阪難波などで、来場呼びかけのビラ3000枚を配布した。選手たちも自らの力で観客動員に一役買った。

 試合当日、ライナーズのチームテントの前では、本拠地開幕記念と応援をこめて、布施にあるロンモール布施専門店街が作製してくれた、記念撮影用のボードがあった。ジャージー姿のFL天満、タウファ統悦の等身大の写真が左右にプリントされ、間ののぞき穴から顔を出して記念撮影をする。当日、成とトム・ホッキングスがジャージーを着て、サイドに立ち、一緒に写真におさまった。ファンサービスも選手たちがこなした。

 今季初供用となる芝生の深い緑は申し分なかった。厚みは人差し指の第二関節まであり、これまで赤茶色のアンツーカートラックが周囲を囲む芝、サッカー用の短いものではなく、ラグビー用の激しいぶつかりを想定した、衝撃をより吸収するものになった。

 やはり花園は違った。

 

 次節、第6節は1週空いた10月19日(土)。再びホーム花園で首位、勝ち点差9のヤマハと対戦する。前節6位から順位を上げたとはいえ、5位クボタとは1ポイント、6位キャノンとは2ポイントの差しかない。抜けるためには勝利が絶対に必要だ。

 

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 ヤマハはライナーズにとって因縁の相手でもある。

 11年前の2002年、トップリーグ設立の前年は関西社会人Aリーグで対戦。31-36で敗れて5位に沈んだ。

 リーグ戦後にあった第55回全国社会人大会は、関東、関西、九州の三地域リーグの成績を参考に4チーム4組による予選プールを実施した。この時、プール戦は翌年のトップリーグ入り12チームを決めるためのものでもあった。ライナーズは関西1位のヤマハ、西日本2位の九州電力、関東4位のクボタとB組に入った。1勝1敗で臨んだ最終ヤマハ戦での結果とプール最終戦の九州電力とクボタの結果を合わせれば、最下位に沈む可能性があった。そうなれば2003年開幕のトップリーグに参加できず、再編された下部組織、トップウェストAからのスタートだった。

 ゲーム規約では、同星で複数チームが並んだ場合は当該チーム対戦成績、3すくみの場合は3試合の総トライ数で上位を決めた。B組最終戦の結果を待たず、トップリーグ入りを決めるためには、ヤマハから「6トライ以上を取って、なおかつ2トライ差以上に抑える」という一見実現不可能な難しい条件がついていた。

 

 現在、リクルート、普及担当の吉村太一はSOとしてチームの浮沈がかかった一戦に臨んだ。グラウンドは花園だった。

「リーグ戦で負けたリベンジもあった。トップリーグに参加するためには非常に厳しい条件だったが、花園ということもあってみんな燃えていた。集中力はすごかった。ミスが起こらなかった」

 結果は38-26。6トライを取り、2トライ差をつけた。

 最終的には、B組を1位で通過した。そして2003年開幕のトップリーグ12チームに入った。強豪のトヨタ自動車はC組最下位になり、リーグ入りは叶わなかった。それほど、激しい戦いだった。

 11年前に比べれば、なんてことはない。1点差だろうが、2点差だろうが、ただ勝てばいい。

 当時のメンバーで、現在、現役を続けているのはNO8佐藤幹夫ただ1人である。出場すれば、佐藤はプレーはもちろん、精神的支柱になる。

 

 ヤマハの戦い方はシンプルだ。ただ、込み入ってないだけに、一人一人の役割が明確になり、強さに跳ね返る。

 代表キャップ7のSO大田尾竜彦、同29のFB五郎丸歩のロングキックでエリアを取り、スクラム、ラインアウトのセットプレーで相手を崩す。特にスクラムは左PRとして代表キャップ40を持つ長谷川慎がFWコーチとして鍛え上げてきた。同39のPR山村亮、陸上自衛隊最強、千葉・習志野の第一空挺団で6年を過ごしたPR田村義和など、フィジカル、メンタルともに強い選手が第一列にはそろう。スクラムを含め、コンタクトシチュエーションでの優劣が勝敗を分ける。

 

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11年前、FLとしてプレーをして、現在は広報担当としてライナーズを支える坪井章は力を込める。

「花園で試合ができることはとてもいい。ここでできれば、負ける気がしない」

 ヤマハの本拠地、静岡・磐田のヤマハスタジアムでの試合なら、サッカーとともにラグビーを愛する人々がたくさん集まる。ライトブルーの旗が林立。風にはためいていたはずである。

 本拠地での戦いは宿泊遠征の不利もない。

 ライナーズは運がいい。

 この幸運を生かさなければならない。

 

(本文敬称略)

 

(文:スポーツライター 鎮 勝也)

(写真:加守 理祐)

 

【前田監督コメント】

リコー戦は、ホーム花園で近鉄ライナーズサポーターの皆様の

力強いご声援で勝利を掴む事ができました。

次節ヤマハ戦は、リベンジを込めて、チーム一丸精一杯

頑張りたいと思います。

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