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2013年9月 3日 (火)

トップリーグ第1節 パナソニック戦レポート

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0-46。

 声の出ない開幕黒星だった。

 トップリーグ設立から10年で優勝1回、準優勝4回を誇る強豪、パナソニック・ワイルドナイツに地元、大阪のキンチョウスタジアムで完敗した。ホームの有利さを生かせなかった。

 

 試合前のトスに勝ったパナソニックは風上、バックスタンドに向かって左側を取った。台風が温帯低気圧に変わったとはいえ、グラウンド上は強い風が吹いていた。

 風下のライナーズはセオリー通りのパス中心のアタック。パナソニックはSHイーリー・ニコラス、SOマイケル・ホッブスのキックで敵陣に入るオーソドックスな攻めを見せた。

 先制されたのは前半12分、ラインオフサイドのPGをFB田邊淳に決められ、0-3とされる。16分には相手スクラムを押し切る。しかし密集に集中した直後、エアポケットとなった左サイドをNO8ホラニ・龍コリ二アシに突かれ、SHイーリーに先制トライを喫した(ゴール成功)。2分後の18分、自陣ゴール前のマイラインアウトの抜け球を同じくSHイーリーに拾われ、インゴールに飛び込まれる(ゴール失敗)。FB田邊にさらにPGを決められ、前半は0-18で終了した。

 

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 風下ならば、風上に立った後半は、通常4トライまでは挽回できる、とラグビー関係者の間では言われている。18点差での後半突入なら健闘に分類される。巻き返しに期待がかかった。

 後半20分までスコアレス。動いたのは21分だった。自陣のラックからLO北川勇次の内返しのパスに反応した南アフリカ代表キャップ48のCTBジョンポール(JP)・ピーターセンに来日初トライを記録された(ゴール成功)。0-25となって崩れる。31、35、39分とインゴールを陥れられ、試合終了のホーンが鳴った時、スコアボードは0-48となっていた。

 前半28分、オーストラリア代表キャップ28の新加入のNO8ラディキ・サモ、CTBジーン・フェアバンクスが同時に負傷交代した不利もあった。それでも現実に獲得ポイントは0。逆にパナソニックには4トライ以上のボーナスも含め5を差し出した。

 

 重苦しい雰囲気が占める試合後の記者会見。前田隆介監督は言った。「いい感じで試合前一週間の練習ができたが、ケガ人が早い段階で出たこともあって、やろうとしていたことができなかった」。リザーブに入ったHO太田春樹主将に代わり、ゲームキャプテンをつとめたCTB森田尚希は「後半になって点を取らないといけない、ということが焦りにつながってミスが出た」と振り返った。

 

 敗戦の一番の原因はミスの多さだろう。つながらないパス、ノックオンが散見された。夏の猛烈な汗、試合途中から降り出した雨、開幕ゲームの緊張…。それらが絡み合い、ボールコントロールを狂わせた。先制トライはハイパントのノッコンのスクラムから生じた。2本目トライはラインアウトボールが抜けた。インゴールから近かったため、ロングボールを投げ、確保を狙ったが、精度が悪かった。プレー選択も疑問符がついた。自陣ゴール前のロングスローはコントロールの良さが鉄則。風下、ボールが滑るコンディションを考えれば、オールメンで2、4番ボールが妥当ではなかったか。「たら」、「れば」は禁句だが、あえて書けば、この失トライがなく、PGが決まっていれば、前半は3-11。8点差なら後半を迎える心構えはまったく変わっていたはずだ。

 

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 この日のレフェリーは国内最高のA級を持つプロフェッショナルの原田隆司。試合を最も至近距離から見たトップ審判はミス続出の理由を説明する。「パナソニックの方がわずかだが、アンダープレッシャーでも相手に対して体を寄せてくる。最後まできっちりと体を当てに行っている。その差だと思う」。ワンプレー、ワンプレーを大切にする。コンタクトは常に全力。絶対に諦めない。パナソニックの姿勢は後半35分、WTB北川智規のトライに現れている。インゴール右隅でグラウディングしようとしたが、ライナーズが寄らないと見るや、中央まで回り込んだ。FB田邊のゴールキックの精度を上昇させるためだ。ゴール不成功、成功は37点と39点。この段階で勝負はついている。それでもわずか2点を貪欲に奪いに行く姿に、毎年のように優勝争いに加わるチームの真髄が垣間見えた。

 もちろんライナーズも勝負に賭ける動きが皆無ではない。ゴールキック時にWTB壇辻勇佑がチャージに行った。奇特である。突っ込んでくる人間がキッカーの視界に入り、ゴールキックに失敗すると、壇辻は2点をチームにもたらしたことになる。このような細かい勝利への執念の積み重ねが、大きい勝ちにつながっていく。

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 勝利者インタビューでパナソニック・中嶋則文監督は第一声を放った。「開幕戦、近鉄は中井君が亡くなった。結束力を持って向かってくるのは分かっていた。難しい試合になると思っていた。前半、きっちりとした展開にしたかったが、それができた。後半はフィットネスが勝った」。

 5月、24歳で一人で旅立ったFL中井太喜を意識していたのはライナーズだけではなかった。敵将もまたそうだった。自分のためではなく、人のために戦う時、人間は尋常ではない力を出せることを知っていた。だからこそ、強い意志、執念でオープニングに臨んだのだ。

 

 今、必要なのは、今季からジャージーの左袖に縫い付けられた「NAKAI」の名前を声高に口走ることではない。生涯忘れることのないネームを一人一人が胸に刻み、タックルに、セービングに、キックに、パスに、ランに、一つ一つのプレーに体を張り、心を込めることである。2度と楕円球を持てない中井の代わりに命を懸けることである。

 この試合、敵味方関係なく感動させたプレーが果たしてあったか。

 バックスタンド中央左で「倍返し」、「取って帰れ」と雨に臆することなく大声を張り上げ続けたくれたサポーターが満足できる敗戦であったか。

 激しいコンタクト、高いフィットネスはもはやライナーズの代名詞ではない。他のチームも血のにじむようなハードワークを課してきている。もっと、もっと、愚直に日々のトレーニングに取り組まないといけない。

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 かつてのウィニング・カルチャーはどこに置き忘れてきたのだろうか。

 日本選手権優勝3回、社会人大会(トップリーグの前身)優勝8回。

 1960年代後半から70年代前半にかけて、このチームには、WTB坂田好弘(現関西ラグビー協会会長)、SH今里良三(前ライナーズGM)、LO小笠原博(元ワールド監督)ら伝説のラグビーマンが数多く在籍した日本を代表するチームだった。リコー・ブラックラムズとの定期戦が今も存在しているのは、当時のこの国を引っ張ったトップの名残である。その頃、パナソニック(旧名東京三洋)は近鉄に及ばなかった。

 あれから40年。形態を変えたり、消えた強豪チームはたくさんある。新日鉄釜石、新日鉄八幡、三菱自動車京都、ワールド、カネカ…。「いてまえ打線」で一世を風靡したプロ野球球団、近鉄バファローズでさえ消滅した。その流れの中で、ライナーズは企業チームとして残っている。低迷した時期があったとはいえ、プレーヤーはその重みを今こそかみしめるべきだろう。失くしたものは取り戻すことはできないけれど、忘れていたものは思い出すことができる。中井の姿とともに、伝統の継承者としての誇りを忘れないことだ。

 

 

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 長居にあるキンチョウスタジアムのメインスタンドからは、北側に近鉄グループの新しい象徴、「あべのハルカス」が見えた。天王寺にある日本最高、地上300メートルを誇るビルは、今季からライナーズジャージーの左胸にプリントされている。試合前にはくっきりとそびえていた超高層建築は、試合終了直前に激しさを増した雨のため、かすんでいた。

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(文:スポーツライター 鎮 勝也)

 

(写真:加守 理祐)

 

【前田監督 記者会見コメント】

強風などの悪天候の中、たくさんのサポーターの皆様にお越しいただき、

熱いご声援をいただき、感謝申し上げます。ありがとうございました。

今日の開幕戦に向けて、良い準備を整えてきましたが、

良い結果に繋がる事ができませんでした。

シーズンはまだ始まったばかりです。

切り替えて、次節の準備をしっかりしていきます。

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