6月29日 コカ・コーラウエストレッドスパークス戦レポート
変わらないもの、いや、変わってはいけないものが近鉄ライナーズにはある。
春シーズン最終戦、コカ・コーラウエストレッドスパークス戦は敵地、福岡市のさわやかスポーツ広場で19―21と逆転負けした。現状のベストメンバーで臨んだ6月29日の敗戦に輝きを放ったのは、身長はわずか170センチのFL大隈隆明だった。トップリーグのFWプレーヤーとしてはもっとも小さい1人に数えられる、ライナーズ9年目のFLは、10代から変わらない高いワークレイトで、ボールに絡み続けた。
「自分の持ち味は仕事の質と量。常にどんなプレーでもさぼらない。」
前半4分、自陣ゴール前ラックで左サイドから素早く相手SHをスイープした。寝込んでいる人間と大差ない低い姿勢から、一気に体を当てに行った。残ったボールはSH金哲元からBKへ。ターンオーバーで失トライのピンチを防いだ。同18分には、突っ込んで来たコカ・コーラLO川下修平の太ももに、真っ直ぐに頭と肩をぶち当てた。自分より15センチも高い、185センチに躊躇(ちゅうちょ)なし。ユニークな動きを見せたのはモールで先制トライを奪った前半10分。ラインアウトで2番目に入り、ボールを獲得した。170センチの大隈をコカ・コーラはノーマーク。キャッチャーとしてラインアウトモールの軸になり、貢献した。
ライナーズでの主将経験もある大隈に、前田隆介監督の信頼は厚い。
「ウォーミングアップから黙々とルーティーンをこなす。その姿に練習や試合への本気さがひしひしと感じられる。だから一言一言に重みがある。リーダーの資質を持っている」
30歳になった大隈は、島根・江の川高校(現石見智翠館)から法政大学に進み、FL一筋にボール獲得の最前線で体を張った。スモール・ボディーを支えたのは高校時代、ラグビーのオフシーズンの3~7月に取り組んだボクシングや相撲で培った闘争心だった。15人で勝負を決めるラグビーと1人で勝敗全てを背負うボクシングは違う。「四角いジャングル」と評されるロープで囲まれたキャンバスからは逃げることも、加勢を頼むこともできない。楕円球を追う人間としては異色の孤独な戦いが、日本最高峰のリーグで、身体的ハンディを背負いながら、何物にも屈しないメンタルが磨かれた。ミドル級でインターハイに出場した経歴や元世界チャンピオン、具志堅用高にプロ入りを口説かれた経験は、その体の小ささからはうかがい知れない身体能力の高さを物語る。
30代に突入して、知恵もついた。ただ、がむしゃらにトレーニングを続けていた20代に比べて、準備やケアの大切さを実感する。
「これまではストレッチやアイシングに力を入れてこなかったが、昨年、ふくらはぎの肉離れをしてから、そういうことに重点を置くようになった」
一目置くプレーヤーはサントリーサンゴリアスFLのジョージ・スミス。オーストラリア代表として、「世界最高のオープンサイドFL」の称号を手に入れた男に、大隈は範を求める。スミスは、ワラビーズではジャッカルやリンクプレーが際立ったが、サントリーではペネトレーターとして欠かせぬ存在になっている。
「チームの求めるニーズに合わせて何でもできるプレーヤーになりたい。デカい選手が体を張るプレー、ボールを持っての突進などもしたい」
スミスの名前を挙げるように、FLにはこだわりがある。法大入学時やライナーズ入団時にはサイズを考え、HO転向が打診された。HOなら桜のジャージーをも狙えた。それでも今や190センチ近い身長が当たり前になったサードローから動かなかった。
「FLが好き。すべてが自分次第だから。フォローをサボればで楽にもなるし、きっちりと行けばしんどくもなる。それを自分で選べるポジション」
自律できる人間しか口にできない言葉が飛び出す。
ただし、試合そのものは大隈のパフォーマンスとは裏腹に黒星を喫した。
前半10分、ラインアウトモールからFLタウファ統悦がインゴールに飛び込んだ(ゴール失敗)。5-0と先制。同37分にはSO重光泰昌のキックをFB高忠伸がインゴールで押える(ゴール成功)。12-0で前半を折り返した。
玄界灘に臨む香椎にあるグラウンドは風がある。後半、ライナーズは風下に立った。5分、パスミスをつながれ、コカ・コーラエースのWTB築城昌拓に50メートルを走られ、失点する(ゴール成功)。12-7。16分にはSO重光がボディーバランスと体の強さでゴールラインを越えるが(ゴール成功)、23分にはラインアタックで右大外を破られ、19-14と再び5点差に詰め寄られた。試合が決まったのは後半42分、ゴール前でキックチャージをされ、トライを奪われ、決勝のゴールキックも決められた。
重苦しい雰囲気の中、大阪体育大学出身の新人LO山口浩平は後半から出場。ルーキーとしてはただ1人、グラウンドに立った。188センチ、105キロと22歳では完成された巨体を生かし、後半23分にはラックサイドに立ち、ボールを受けると低い姿勢でタックラーを跳ねのけ、ポイントの芯になるなど、社会人に引けを取らないコンタクト能力を見せた。
前田監督は評価する。
「あの場面、しっかりした体勢で、きちっとボールを出してくれた。新人ながらトップチーム相手にあれだけのプレーができるのは素晴らしい。ポテンシャルも高いし、鍛えていけばいい選手になる」
6戦した春シーズンは3勝3敗。豊田自動織機シャトルズ(19-12)、大阪府警(59-0)、NTTドコモレッドハリケーンズ(42-24)とホーム花園では勝利、トヨタ自動車ヴェルブリッツ(14-31)、リコーブラックラムズ(7-19)そしてコカ・コーラウエストレッドスパークスとアウェイ(遠征先)では敗北した。
前田監督は春シーズンを総括する。
「上積みのできた部分とできなかった部分がある。でも相対的には意識して取り組んでいることはできてきている」
今季は「立ってつなぐラグビー」を標榜する。その中でオフロードパスなどを使いながら、ラインブレイクを狙う。コカ・コーラ戦の後半11分、敵陣ゴール前でCTBジェフリー・イエロメが、相手ディフェンダーを懐に入れて粘ったところに、ブラインドサイドからWTB李陽が走り込む。奪うがごときパスを経て、李はインゴールにダイブした。相手タックラーにうまく側面から手を入れられ、トライ認定はされなかったが、このワンプレーに鍛錬の確かさが垣間見えた。
太田春樹主将はディフェンスの成長を口にする。
「ラインスピードを上げて、前で相手を捉えられようになってきた。これからはシーズンに向けて、もっと精度を上げて行きたい」。
今後は7月下旬、北海道・北見で行われる夏合宿を経て、8月31日にはトップリーグ開幕戦、パナソニック・ワイルドナイツ戦を迎える。残り2カ月と限られた時間の中で、さらなる高みへ到達するトレーニングは続けられる。
(文:スポーツライター 鎮 勝也)