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2013年10月23日 (水)

トップリーグ1stステージ第6節 ヤマハ発動機戦レポート

「あきらめは愚か者の結論」

 この言葉を近鉄ライナーズは心に刻む状況になった。

 

 10月19日、ライナーズはホームの近鉄花園ラグビー場でヤマハ発動機ジュビロに17-26で敗北した。獲得4トライ以上、7点差以内の敗戦でもらえるボーナスポイントすら獲得できなかった。

 翌20日、キヤノンイーグルスはコカ・コーラウエストレッドスパークスを66-36で、クボタスピアーズはリコーブラックラムズを16-12で下し、それぞれ勝ち点を積み上げた。

 ライナーズは前週4位から順位を2つ下げ、6位に降下した。

 

 1位 ヤマハ発動機 25

 2位 パナソニック 23

 3位 東芝 19

 4位 キヤノン 15

 5位 クボタ 15

 6位 ライナーズ 12

(4、5位は得失点差による)

 

 残りのプール戦は1試合。11月30日から行われるセカンドステージ、グループA参加には4位以上が条件。状況は極めて厳しくなった。

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 ヤマハは因縁の相手だった。2002年度、トップリーグ入りも兼ねた第55回全国社会人大会(トップリーグの前身)予選プールで対戦し、「獲得6トライ以上、2トライ差以上」の難条件をクリアして勝利。リーグ入りを果たした。11年後、その再来とはならなかった。

 当時、NO8で先発し、今回はFLで出場した佐藤幹夫は33歳になる。リーグ入りの熱戦を知る唯一の現役は言葉を絞り出した。

「悔しい。ブレイクダウンでプレッシャーを受け、反則やミスを犯してしまった。トップリーグ入りの試合は入社1年目で印象に残る。でも、ヤマハとは毎年対戦しているから、自分は昨年のラストゲームに対する思い入れの方が強い。シーズンを終わらせられてしまったから」

 今年1月26日、ワイルドカードトーナメント2回戦で対戦し、12-70で完敗。第50回日本選手権に出場できなかった。19日の敗北は、昨年度のリベンジをも彼方へ押しやってしまった。

 

 試合後、記者会見場に現れたライナーズ監督、前田隆介の顔は赤く紅潮し、こわばっていた。

「何としても勝ちたいゲームだった。ウチは80分間、辛抱しきれなかった。辛抱はヤマハの方が上手だった」

 前田にとって、ヤマハ監督、清宮克幸は早稲田大学の7歳上の先輩だ。早大監督として大学日本一に輝き、その後、サントリーサンゴリアスでも指揮を執った清宮に対し、尊敬をベースにしたライバル心もあった。

「結果を出されたすごい指導者。高い評価も受けておられる。だからこそ、個人的に特別な思いもあった」

 今季初めてリザーブ8人にSH金哲元の交代要員を入れなかった。SH出身の前田はパス専門職の重要性を誰よりも知っていた。決断は勝利に対する執念だった。控えはHO樫本敦、PR豊田大樹、才田修二、FL大隈隆明、LO村下雅章、CTBジーン・フェアバンクス、WTB田中優介、リコ・ギア。超攻撃的布陣で臨んだが、思い通りにはならなかった。

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 ヤマハの勝因はコンタクトの強さ、激しさである。

 ブレイクダウンでファイトする、しないの判断も的確だった。

 ライナーズ分析班によると、ターンオーバーの数はライナーズ16に対して、ヤマハは19。数字もヤマハ有利を示している。

 0-7の前半6分、SO大田尾竜彦のライン裏へのゴロパントをFB五郎丸歩にインゴールで押えられ、同点にされた。大田尾のキックコントロール、五郎丸のダッシュ以上に、直前のラインアウトモールから、サイドを3回突いてもボールを手放さない保持力が光った。ライナーズの後ろが空いたのは、クラッシュに自信を持つ相手を少しでも前で止めようとした結果。心理状態を相手司令塔に逆手に取られた。

 LOトンプソン・ルークは振り返る。

「ヤマハはブレイクダウンがすごく強かった。そこに人数をかけてきた」

 試合後の会見で質問が飛ぶ。

 「どのフェイズでラックに集中的に入る、というのを決めているのか?」

 清宮は笑みを浮かべて答える。

「ルールは特にない。個々の判断。1人目が勝っているから、2人目が入っていける」

 

 ヤマハのフィジカルの強靭さは普段の練習にある。

 典型的なのは2対3。アタック2人に対して、ディフェンスは3人。ボールキャリアーに、基本的には上下にタックルが入り、ジャッカルを目指す。残り1人は、ターンオーバーができそうなら、争奪戦に加わり、キープされそうなら、次のフェイズに備える。

 右PR田村義和は分厚い胸を張ってルーティーンを説明する。

「こういう練習をいつもしている。タックラーはできるだけ相手を仰向けに倒すようにする。受けるとダメ。前に出れば2人目がジャッカルしやすくなる。ミスをすれば厳しく注意を受ける」

 1対1の戦闘力を高めるため、清宮はレスリング出身の太田拓弥をコーチに招き、登録した。太田は日本体育大学出身。アトランタ五輪フリースタイル74キロ級で銅メダルを獲った。ラグビーと共通する低いタックルの入り方など、相手を倒し、動きを奪う体の使い方を実践的に落とし込んでいる。総合格闘家の髙阪剛をスポットコーチとして招聘した日本代表ヘッドコーチ、エディー・ジョーンズと同じ視点である。

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 明治大学から入社1年目、FLの定位置を奪った堀江恭佑は田村の言葉にかぶせる。

「ヤマハは1人1人がとてもハード。大学に比べたら集中力も全然違う。特に徹底して言われるのは、アタックもディフェンスも2人で動け、ということ」

 攻守両面での接触時には、2人目は指が触れる、ほぼ密着の近さに従う。ペアでの働きかけがヤマハの進撃を支える。

 堀江は11月2日のニュージーランド代表戦、それに続くヨーロッパ遠征の日本代表メンバーに初選出された。実戦に即した、繰り返し肉体をぶつけるトレーニングがルーキーを代表レベルに押し上げた。

 清宮の言葉の裏には自信がある。

「ウチは特別な近鉄対策はやってこなかった」

 普段のボール争奪の根源を突き詰める鍛え方が就任3年目で花開こうとしている。

 

 ヤマハ戦ではラインアウトからの攻めが消極的に映った。

 7-10の前半19分、敵陣ゴール前右5メートルのラインアウトから、ショートサイド側へのピールオフ、いわゆる「前ピール」を選択した。結果はFLタウファ統悦からHO吉田伸介のつなぎでミスが発生。ターンオーバーを許し、好機を逃した。

 得点源の一つ、ラインアウトモールを選ばなかった。

 FL佐藤は理由を説明する。

「事前にヤマハの映像を見て、ラインアウトの前に穴がある、と分かっていた」

 直前のラインアウトでモールを形成して、ヤマハのコラプシングを誘ったにもかかわらず、2回目はパスプレーを選んだ。

 

 高校日本代表や日本A代表(代表の下のカテゴリー)を監督として率いた川村幸治は話す。

「団体競技でギャンブルプレーは難しい。成功すればよいが、失敗すれば、チームの成長を止める。チームのクォリティーを上げるためには、これまで取り組んできたプレーを重ねていくしかない。根性比べに勝たないといけない。同じプレーを繰り返す中でチームに規律が生まれる。ギャンブルをするならどの場所で、どの時間で使うか、が重要になってくる」

 川村は近鉄花園ラグビー場と同じ東大阪市にある布施工業高校(現布施工科)の体育教諭として、公立高校ラグビー部を全国大会に3度導いた。今春、大阪府教育委員会№2の教育監を最後に定年退職し、現在は大阪国際大学の副学長をつとめる。今秋もNHKの大学ラグビー中継の解説を依頼されている。ラグビー、そして教育現場で叩き上げた川村の言葉は示唆に富む。

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 前ピールはギャンブルではなかったかもしれない。しかし、ライナーズの大きな得点源の一つはゴール前のモールだったはずだ。直前にモールを組み、相手にペナルティーさせた。ダメージを与えていたのに、再度磨いてきた攻めを選択しなかった。その判断は果たして正しかったのか。だましたり、逃げたりせず、自分たちの取り組みを信じ、真正面から力勝負を挑むべきではなかったか。奇襲プレーはその後でも遅くはなかった。

 

 ラインアウトでは、同時に決定的場面でボールが抜けたり、スチールされたりした。

 ライナーズ分析班によると、ライナーズのマイボール14回中、キープは11回。ヤマハは14回中9回だった。確保はライナーズが上だが、3回中2回の失敗が失点に結びついた。

 7-7の前半18分、自陣22メートル右のマイボールをノックオン。アドバンテージをもらって攻め続けたヤマハにライナーズはラインオフサイドを犯し、FB五郎丸にPGを決められた。

 17-13の後半10分、自陣22メートル左のマイボールをヤマハにクリーンキャッチされ、LO大戸裕矢に逆転トライを許した。

 ラインアウトリーダーでサインを出すLOトンプソンは沈み込む。

「リーダーがよくなかった。自分がダメ」

 責任はもちろんトンプソンだけにあるのではない。

 スロアー、ジャンパー、リフター、ダミーの動きをする選手などFW8人に等しく分散される。

 

 ヤマハFWコーチ、長谷川慎はライナーズラインアウトに対する印象を口にした。

「近鉄は高身長の選手が多いから、敵ボールのラインアウトは捨てろ、と言っていた。2番の位置にトンプソンを入れサモと松岡で上げていれば、ウチはまったく届かなかったはずだ」

 ヤマハ先発出場選手の最長身はFLデウォルト・ポトヒエッターの190センチ。ライナーズはNO8ラディキ・サモの197を筆頭に、トンプソンが196、LO松岡勇が190センチと高さでは勝っていた。

 清宮は長谷川の言葉を引き継ぐ。

「ラインアウトディフェンスに関しては前でひとやまは上げよう、と言っていた。やったのはそれだけ。そこに近鉄は投げてきた」

 ひとやま=一山。競らす場所を1か所は作った、ということである。無抵抗ではなかったが、厳しさもなかった。ボールはそこに飛んだ。

 ミスによる自滅の感がぬぐえない。

 

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 試合終了寸前には、プール戦全体を通した総合的戦略判断からすると、疑問が残ったプレー選択があった。

 後半40分、オフサイドにより敵陣でPKを得た。得点は17-26。どのような形で得点しても逆転はできない。

 スタンドの関係者席からは「ショット」の声が飛んだ。グラウンド内の選択は、タップキックによるFWラッシュ。あくまでもトライにこだわった。しかし、ゴールラインは越えられなかった。

 前田監督は言う。

「選手はトライを獲りに行って勝ち点を目指した。監督としてその気持ち、判断を尊重したい。PGを狙っていても入らなかったかもしれない」

 指揮官がプレーヤーの判断を支持する姿は美しい。当然でもある。実際、選手たちはアグレッシブだった。

 

 しかし、ここで問題になってくるのは、このプールが勝ち点制である、ということである。勝ち星の多いチームが上位に座らない。ポイントの高いチームが上に行く。トライより、相手からの妨害が皆無のPGが決まっていれば、6点差となり、ボーナスポイントが手に入った。プールB4位のキヤノンとの勝ち点差は3から2に縮まっていた。

 終盤、ゲームキャプテンのCTB森田尚希は交替していた。主将、HO太田春樹はケガでメンバー23人に入っていない。リーダー不在の不利はあった。それでも、この場面ではグループA入りの手立てを冷静に考え、実現可能な1ポイントを獲りに行くべきではなかったか。

 常識では考えられない神秘的な出来事は、その姿勢からしか生まれないはずだ。

 

 この日、試合中継した「J SPORTS」の解説はラグビージャーナリストの村上晃一だった。村上は大阪体育大学でFBとして西日本学生代表にも選ばれた。卒業後は月刊誌「ラグビーマガジン」の編集長をつとめ、フリーランスとなる。現在、ラグビーメディアでは代表的存在である。

 村上はライナーズの問題と解決策を話す。

「今日、試合を見て思ったのは、一つ一つのプレーが非常に雑だということ。ミスが起きた現象だけを捉えてほしくない。ミスが起きる時には必ず起点に原因がある。丁寧にコンタクトしなかった。丁寧にダウンボールしなかった。丁寧に球出ししなかった。その一連の流れが、どこかでミスという形で顔を出す。近鉄は決して弱くない。起点さえ丁寧にしていけば、もっとやれるはずだ」

 

 村上はCTBジェフリー・イエロメの突破力やタックル、SO重光泰昌の視野の広さやディフェンダーをすり抜けるランニング能力を「リーグトップレベル」と評価した上で続ける。

「今日は重光が抜けるシーンが少なかった。なぜ抜けなかったか、というと重光が一人でプレーするシーンが多かったからだ。本来、重光はサポートを利用して抜くタイプ。左右にパスキャッチャーがついて、その上でパスやランの選択をする。ところが今日はサポートがいない場面が多かった。孤立していた。その理由はブレイクダウンで食い込まれたからだ。そこで人数を割かねばならなくなり、重光をフォローできなかった」

 敵将、清宮が心を砕くブレイクダウンのわずかな敗北が、粗さを呼び、ミスを生じさせ、勝利を奪った。村上はそう分析している。

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 ライナーズは第6節で自力でのトップ4入りの望みはついえた。ただし、最終節にボーナスポイントを含む勝ち点5を挙げれば、他力ながら4強に入る可能性は残る。ヤマハと対戦するキヤノン、コカ・コーラと対戦するクボタの結果次第だ。

 ファーストステージ最終、第7戦は10月27日(日)に行われる。東芝ブレイブルーパスと鳥取・コカ・コーラウエストスポーツパーク陸上競技場で対戦する。キヤノン、クボタの勝ち負けは前日26日に決まる。2チームが敗れれば、本当にチームの浮沈をかけた一戦になる。

 東芝はヤマハに17-33、10月19日にはパナソニックワイルドナイツに22-40で敗れた。ヤマハを基準に、さらに前試合のパナソニックにダブルスコアで負けたことを考えれば、ライナーズにも勝機はある。

 

 近鉄ラグビー部OB会長をつとめた甲佐史郎が寄せた一文がある。

「まず第一に近鉄ラガーが一貫して目指してきたもの、常に目指しているものは何か。それは、『日本一になる』という目標である。この目標と、これを達成するための意欲、努力を私達は捨ててはならない。いうなれば近鉄ラグビー部の伝統である」

 今から13年前、2000年9月、「近鉄ラグビー部70年誌」が創刊された時に書かれたものである。甲佐は大阪大学から近鉄に入社。晩年は経営陣の一人として近鉄タクシー社長などを務めた。関西ラグビー協会でも要職を歴任した。現在は鬼籍に入っているライナーズを支えた人物の言葉を、熱い思いを知る現役が、いったい何人いるだろうか。

 

 甲佐の文章を現実化できるチャンスはわずかながら残る。

 今はただ、奇跡を信じ、プレーをするしかない。

(本文敬称略)

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(文:スポーツライター 鎮 勝也)

(写真:加守 理祐)

 

【前田監督からサポーターの皆様へ】

 何としても倒さねばならない相手でしたが、勝負どころでのミスとペナルティーなどで勝ちきることができませんでした。

ファーストステージも残り1試合です。

最後の最後まで諦めることなく、東芝さんにチャレンジしたいと思っています。

引き続きご声援宜しくお願い致します。

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